高千穂の村々では、村人が手をたずさえあって生きている。
春になると、総出であぜ道の草刈りをし、用水路の手入れをし、皆の田んぼに水が行き届くように気を配る。
夏になれば、村の若者は毎晩消防団の訓練に勤しむ。野菜の収穫は最盛期を迎え、朝晩寝る間もなく働く。
秋には黄金色の稲穂が棚田に実り、芋やら栗やらかぼちゃやら、収穫された作物を笑顔で分けあう。
晩秋の頃から冬にかけては、いよいよ夜神楽の季節である。夜神楽の日には、村が総出で八百万の神々を迎え入れる。
山々に眠る鹿や猪もまた、月の光に目を細めながら、夜神楽の笛や太鼓の音色に耳を傾けているのだろう。
夜神楽に込められた願いや祈りが、世界の恒久の平和に繋がっているのだと思う。
高千穂に暮らす古老が私に教えてくれた。
「田植えにしろ稲刈りにしろ、労働は一つの神事であり、村の楽しみごとであったとよ。私が幸せだったとは、ただこの村に生まれたということだけでしょうな…」
百年前、二百年前、三百年前…。古老のご先祖様もまた、心豊かにこの村で暮らしていたのであろう。
もうすぐ、高千穂に春がくる。ゆっくりとだが、確かに時間は流れていく。
日向時間舎 主幹 藤木哲朗